● 発行年月 | 2015年7月刊行 |
● 価格 | 定価 2,420円(税込) |
● 判型 | 四六判 |
● 装丁 | 上製 |
● ページ数 | 338ページ |
● ISBN | 978-4-87290-759-9 |
話題を集めたピケティ著『21世紀の資本』(みすず書房刊)は、欧米社会を中心に、現代社会に危機を招いている格差問題を、ビッグ・データを基に解析し、提言を綴った好著である。
だが、爽快な読後感の一方で、私たち日本社会における深刻な社会問題である「格差」「貧困」に関するピケティ氏の考察・問題解決への言及があればとの思いが残ったのも事実である。
そこに着目した著者は、日本特有の格差の歴史から、現代の格差に至った道を紐解き、「アベノミクスの終焉」「グローバル化の行方」「地域創生の行動プラン」にも言及しながら、日本独自の格差問題の深層を突き、その解決策を示した。
著者は、格差問題がこのまま放置されるならば、日本はやがて崩壊の危機に瀕するであろうと危惧する。その大きな根拠は「若者差別」にあり、それが「非婚」「少子化」を加速させ、「慢性的な人口減」により、「日本の明るい未来が失われる」と力説する。
格差問題に踏み込むと、富の既得権者は反発するかもしれない。しかし実際には、これを解決することは彼らの未来も明るくするのだ。格差をなくすことこそが、この国を豊かにする最優先の答えである」と「はじめに」で記している。
日本の未来を照らす書となれば幸いである。
まえがき 格差是正こそが日本を豊かにする
序章 ピケティ革命か、ピケティ現象か
1 データが物語る格差の真実
・ピケティがアメリカに与えた衝撃
・マンキューがピケティに反論
・富の集中は民主主義への脅威か
・格差問題は経済学か政治学か
2 『21世紀の資本』が読まれた理由
・高い資産か、高い報酬か
・日米には格差の実態がある
3 少子化が引き起こす負の連鎖
・日本の格差問題の本質はどこにあるのか
・結婚できる若者、できない若者
・地方自治体の行動が格差解決のカギを握る
・ピケティ登場で日本再生の道筋が見えた
第1章 特殊な道を歩んだ日本の平等
1 格差なき社会への第一歩
・戦前は格差社会、戦後は平等社会
・日本型企業システムで格差なき成長
・日本の貧困問題は「成長」とは距離を置く
2 大消費を担った戦前の上層階層
・皇族・華族は大量消費を担当した
・産業バロンたちの豪華な暮らし
・財閥が急発展した社会的背景
3 平等欲求が起こした社会変革
・“適者生存の世界”に踊った明治時代
・格差不満が平等社会を求める
・時代の風雲児からの距離
・将来の出世か、今の資産か
・資本と所得の差が広がる
・働いても働いても貧乏の時代
4 国家を救うための社会構造の変革
・格差社会への改革運動が頻発する
・国家改造を求めるラジカル民主主義
・農村救済のため財政を拡大する
5 経済民主化による経済成長
・戦後の平等はどこから来たのか
・戦前戦中の補償としての民主主義
・戦後に経済的平等の重さを味わう
・財閥解体、証券取引法で成長を目指す
・一億総中流意識で格差なき成長へ
6 労働市場の二層構造と生活の二極化
・日本の産業はアメリカへの憧れから生まれた
・狭い国土が機会均等より結果平等を導いた
・新興国との賃金競争が非正規を生み出した
・さまざまな制度・体系が若者を詐取する
・「1・0稼ぎモデル」は時代に置いていかれている
7 若者を虐待する日本の雇用
・なぜブラック企業があらわれたのか
・若者にブレーキをかけさせるシステム
8 悪化し続ける子どもの貧困率
・親の経済力低下で子どもの貧困が増える
・子どもの貧困対策法は機能するのか
・貧困が生活保護の母子家庭で繰り返される
・教育貧困国では未来を描けない
・年金負担を若者に押し付けるのか
第2章 アベノミクスが未達に終わるとき
1 行きすぎた円安と誤った対応策
・内部留保止まりで投資に回らない
・海外インフラ受注3倍増は可能か
・中国のAIIB設立で日本にダメージ
2 労働人口の増加なしの成長戦略
・エストニアは人口横ばいでも成長
・シンガポールは産業政策で成長する
3 成長戦略に必要な企業統治改革
・トービンの投資理論がきかなくなった
・ガバナンスで民間の力を引き出す
・三方よしのROEに活路がある
・春闘のリストラで労働環境の改善を
4 経済成長を人口でなく技術で支える
・技術革新と世界販売はセットで
・経済の新陳代謝は起業から
・先端を切り開くには規制をはずす
・開発リスクと制度責任を分ける
・インダストリー4・0への対抗
5 事実上の日銀引受になった金融緩和策
・金融機関に黄信号が点っている
・財政再建どころか危機の不安
第3章 格差解消・成長経済への扉
1 人が社会に生み出す価値の変化
・モノづくりの価値が低下した
・創知・情報化時代の新たな価値とは
・高等教育から突破口を見出せるか
2 流動的な労働市場の構築
・北欧は労働就業比率が高い
・スウェーデンと日本の制度は似ても労組は似て非
・労使と国が一体となった不況対策からの活路
・生産性の高いところへ労働を移動させる
3 人生二毛作時代の対応策
・雇用維持型から労働移動支援型へ
・労働移動のための職業教育制度をつくる
・一社専用の能力か、他社でも使える能力か
・春闘は家庭再生産の闘争ではなくなった
・起業、多国籍企業は労働移動の受け皿
・再教育も大事だがまず兼業兼居から始める
4 青年男女の最適な就業パターン
・「2・0稼ぎモデル」の大きすぎる影
・女性の活躍は労働生産性を高める
・アメリカでも専業主婦から共稼ぎに
・のりしろを失ったアメリカの「2・0稼ぎモデル」
・金融危機が中間層を没落させた
・保健国家でも女性が主役になれない
・「1・5稼ぎモデル」のメリット
・ワークライフ・バランス確保の「1・5稼ぎモデル」
5 地方創生は覚悟か改革か
・地方創生、攻めと守りの海士町
・自治体人口の減少は破綻への道
・地方創生は先を見据えて行動を
6 新しい老化モデルと高齢者の労働参加
・健康老人向けのプランをつくる
・老若間の医療費負担をバランスよく
・ビッグデータで医療の標準化を
・高度医療費に「平和の配当」を
7 財政再建策としての資本課税
・成長政策とは別に財政再建策を
・税制は経済成長を押し上げるためにある
・消費税でなく資本課税というピケティに賛成
・未開発の森林に仮想炭素税を課す
・税逃れ防止ネットワークが課税を補う
・課税、徴税での国際協調が進む
第4章 グローバル化に抗しての格差是正
1 グローバル化と平等化政策の循環
・国際機関が格差是正の成長を唱える
・賃上げによる金融の善循環と大量消費
・アメリカは恩恵的覇権から金融覇権へ
・グローバル化の行き詰まりで起こること
2 グローバル化が進んだときの世界の反応
・途上国が貯蓄・発展し先進国が赤字になる
・グローバルな民主主義の強要に新興国の若者は反発
・グローバル化がイスラム過激派をつくった
・情報化社会は人をグローバル化させる
・格差問題がネットに流れ若者が反応する
・民主先行のインドと産業化先行の中国
3 中国そして世界のグローバル化対応
・中国の先富主義は成果を生んだのか
・格差に反発する年間20万件の暴動
・和諧社会が進まず5人に1人が貧困
・国が所得格差の拡大を認めた
・中国の指導者は民主化を拒否する
・格差不満を個人崇拝が救えるのか
・グローバル化の歯止めとしての金融規制
あとがきに代えて 不当利得法の今日